小説 WILD ARMS 2
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序章
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第一章
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第二章
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第三章
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第四章
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第五章
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第六章
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第七章
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第八章
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終章
吹き荒ぶ風に、艶々とした黒髪が千々に乱される。カノンは顔にまとわりつく髪を振り払うと、歩を進めながら右手に広がる海原に目を馳せた。
まだ午の最中だが、海は暗い。水平線の上には陰鬱な雲が垂れ込めている。風が止むと怪物の唸りめいた海鳴りも聞こえた。
文字通り、世界の果ての風景であった。
メリアブールから北の海洋を隔てた、さらに北方。その最果ての地に、大陸とも島とも言い難い、半端な大きさの陸地が横臥している。一般にはパレス地方と呼ばれているという。内陸には小さな村と農場があり、肥沃な農地で生産された小麦は高値で流通しているらしいが──基本的には三大国家の枠組みから外れた、いわゆる僻地である。他の地域への交通は月に一度の船便のみ。それも大半が貨物船という状況だ。
こんな過疎に足を運ぶのはよほど物好きな渡り鳥か、そうでなければテレポートの失敗で飛ばされた魔法使いくらいのものだろう。そんな粗忽な魔法使いがいれば、の話だが。
彼女はそのどちらでもない。人を訪ねてきたのだった。
にわかに風向きが変わり、正面から風を受ける。外套が翻り内側の肢体が露わになる。胸から太腿にかけての曲線は、彼女が未だ娘であることの数少ない証であった。
両脚も、右眼も、そして左腕も──人の部分を模した紛い物だ。オリジナル以上の性能を持つが、所詮はそれだけの道具に過ぎない。
失った肉体は、二度と戻らない。
それでも私は、この身に纏わる因業を断つために。
肉体を捨て──亡霊となったのだ。
だが。
「ぐ……ぅ」
潮風が、肉体と紛い物の境目に入り込み、掻き乱した。生じた痛みが神経を伝って全身に駆け巡る。
──あと少しだ。
あの男に会えば、きっと。
この苦痛からも解放される──。
頸の疼きを堪えつつ、再び前を向く。すると。
視界に──奇妙なものが。
ごつごつした岩の大地、灰色の空、暗い海。そんな殺風景を打ち破るようにして、何かが聳えている。
近づくにつれ、その異様さは一層際立った。
鈍く光を放つ柱が、固い岩盤を突き破るようにして立っている。港の灯台ほどの高さはあるだろうか。禍々しさすら感じる漆黒の支柱に、青色に輝く管が蔦のように巻きついている。
──何だ、これは。
カノンは柱を凝視して、眉を顰める。
青い管は、どくどくと脈打っている。これは……血管?
生物──なのか──?
その考えに戦慄して、後退りする。それでようやく柱の裏側にあるものに気づいた。
断崖の手前に小屋が建っている。石造りの壁は所々崩れ、窓も破れていたが、そうした有様の方が周囲の風景にはよく馴染んでいた。
少なくとも、この奇怪な物体よりは。
ひとまず柱から離れ、小屋へと向かう。他に建物は見当たらないから、恐らくここが奴の住処なのだろう。
入口に立ち、扉を開ける。施錠はされていなかった。中は薄暗いが彼女の右眼は微かな光も逃さず受容し、網膜に部屋の輪郭を映し出す。
手前の窓際に書き物机。机上には紙片や色褪せた書物が散乱している。椅子は部屋の中央で横倒しになっていた。
奥の壁にはさらに扉があった。その先は寝床か。扉の斜向かいの壁際には本棚と、金属の台が置かれてある。
その台には見憶えがあった。かつて彼女もその上に横たわり、施術を受けた。
やはり、ここに住んでいるのは──あいつだ。
ヴィクトールの傍らに控え、昏い目をして黙々と施術を手伝っていた小男。弟子だと勘違いしていたが実際は助手だったという。それでもヴィクトール亡き今となっては最後の縁だ。
希望の火は依然として灯っていたが──同時に一抹の不安も生じた。
台の上には、鉄屑らしき部品が積み上がっている。埃も被っており、長い間使われていないのは瞭然だった。
とにかく、本人に確かめなくては。
奴は不在か、それとも奥の寝床か。
部屋に踏み入る。軋む床を歩いて机の前を素通りしかけたが、机上の紙片が目について足を止める。
──これは。
罫線の引かれた紙面に図が描かれてある。黒い支柱と、それに巻きつく血管めいた管。
窓越しに、外にある柱と見比べる。
同じだ。
あの柱を素描したものか、それとも。
これが設計図──?
図面の枠外には注釈らしきものが書き加えられていた。殴り書きの上に細かいのでほとんど読めなかったが、左上の大きな文字だけは読み取れた。
見出しと思しき、その文字は。
「魔界柱……?」
何だ。
あの男──ここで一体何をしていた。
図を横に除けて、他の紙片を探る。相変わらず乱雑な字で書かれてあり解読は困難だったが、何かの報告書ということは推察できた。
紙の束を繰り、視認できる単語を拾い上げる。レイポイント、マナ、異界、エルゥ族、封印、それに……禁忌。
不吉な言葉を訝りつつ、最後の紙片を捲る。その頁だけは文章ではなく一覧になっていた。
上から文字を辿っていき……ある行で目を止める。
──資金と素材の提供。
息を呑んだ。
──オデッサ。
紙束を放り出し、奥の扉へと急ぐ。
通じていたのか。奴はオデッサに協力して、あの柱を完成させた。
用が済んでしまえば、後は──。
扉を、ひといきに開け放った。
カノンは歯を食い縛る。中を見るより早く、充満した臭いで結末を悟った。
その部屋はやはり寝床だった。寝台の手前に足を投げ出して座り込む、小さな影は──。
死んでいた。寝台の縁にぐったりと寄りかかり、頭だけ台に載せたまま骸となっている。既に腐敗が進み顔の皮膚は爛れていたが、命を奪ったと思しき銃創は確認できた。
眉間の中央を、一発で確実に射抜いている。ジュデッカの仕業か。こうした汚れ仕事はあいつの役目なのだろう。
鼻梁に皺を刻みながら、彼女は考える。
これは──偶然なのか。自分の捜していた男がたまたま依頼主の協力者だった、ということか。
──いや。そんな訳はない。
あの女は全て知っていたのだ。恐らく自分のことも、この男を探る過程で知ったのだろう。それで、ついでに利用することを……思いついた。
企みの全貌を知り、彼女は愕然とした。
利用されたのだ、私は。この男と同じように。
利用して、用済みになって、後は二人まとめて。
始末を──。
「あ……ぐぅッ……」
身体の内側に激痛が奔った。膝をつき、肩を抱きながら喘ぐ。希望の火が消え、絶望の闇が無間の痛みとなって彼女を蝕み始める。
いたい。いたいいたいいたい。
脳裏にあの頃の景色が蘇る。瓦礫の山、冷たい雨、血と泥に塗れた──幼い自分。
そう。あのときもわたしは、こんなふうに。
──足掻いても苦しいだけ。
──受け容れれば、楽に──。
「いやだッ」
拳で床を叩き、過去の幻影を振り切るように頭を上げた。
「あたしはッ、まだ」
理由などない。意味など要らない。
肉体を棄て、激痛に苛まれようとも、私は。
この世界に──生きるんだ──!
「オデッ、サ……ッ」
紛い物の足で立ち上がり。
紛い物の眼で前を見据え。
絶望の闇に、怨念の炎を灯して。
亡霊は再び、この穢い世界を歩み始めた──。
男は両手を腰の後ろで組んだまま、澄ました顔でこちらを見返した。
「相見えるのは二度目か。もっとも報告は随時聞いていたから、久しぶりという気はしないが」
アシュレーと同年代と思われるが、容姿と声には幼さが垣間見えた。軍服めいた意匠のローブを纏い、右眼は白銀の前髪で隠れている。
オデッサ特選隊──コキュートスのカイーナ。
「トンネルをループさせたのは……お前だな」
避難してきたティムとノエル王子を背中に庇いながら、アシュレーは問う。
童顔の魔法使いは、億劫そうに鼻で息をついた。
「思ったよりも早く絡繰りがバレてしまったな。制御空間にまで侵入するとは大したものだ。だが」
首を回して周囲をひとしきり見てから、カイーナは続ける。
「出来は今一だな。床は狭いし、全体の造りもチープだ。おまけにセンスが悪い」
「なッ、なにおう……」
すげなく酷評されて、空間の作り主であるリルカが色めき立つ。
「まあ、曲がりなりにもここへ辿り着いたことは褒めてやる。だが……ここまでだ。ジェネレイターは壊させない」
カイーナはそう言うと、組んでいた腕を解いた。
「ジェネレイター……」
アシュレーは視線をずらし、カイーナの肩越しに浮遊する菱形の石を盗み見る。あれが空間のループを維持させている動力源とのことだが。
あの石を護りに来た──だけなのか?
「わたくしが目的……ではないのですね」
同じことを思ったのか、ノエル王子が背後から発言した。
「ん? ああ、お前はギルドグラードの王子か」
今気づいた、という様子で王子を一瞥し、それから肩を聳やかす。
「まあ、攫えば何かの足しにはなるだろうが……いや、二兎を追うのは自重すべきか。今はこちらが先決だ」
二兎を──追う?
王子の誘拐が二羽目というなら、一羽目の兎は……何だ。王子と僕らをループに閉じ込めることで得られるものとは──。
不審を抱くアシュレーをよそに、カイーナは自らの胸許に手を翳す。ローブに填め込まれてあった目玉のような石が妖しく光り出した。
「秘されし鍵よ、我らに叡智を授け給え」
唱えた呪文に呼応して、飾り石から一筋の光が迸った。光線は頭上で炸裂し、閃光が放たれる。
眩しさに一瞬目を逸らし、そして再び目を向けると。
銀色の巨大な鍵が──現れていた。
「げ……あれって」
同じように見ていたリルカが、嫌悪を露わにする。
「知ってるのか?」
「知らないけど、あのフインキは……ヤバいよ。まともな道具じゃない」
漠然とした表現だったが、普通じゃないということは何となく理解できた。
「折角の機会だ。魔鍵『ランドルフ』──封じられし魔具の力、少しだけ見せてやろう」
浮遊しながら下りてきた鍵を取り、その頭部をこちらに突きつけた。アシュレーは身構えたが。
「わたしがやる」
リルカがその前に進み出て、言った。
「目には目を、魔法には魔法使いだよ。ここは任せて」
「リルカ。だけど……」
先程の発言を額面通りに受け取るなら、カイーナの目的は制御空間から自分たちを排除すること。ならば真っ先に狙われるのは──この空間を維持している彼女だろう。
「わかってる。向こうもどうせわたしを狙ってる」
「ほう。それを知りながら敢えて決闘を挑むか」
カイーナが口の端をつり上げた。一方リルカは口を尖らせる。
「守られる方がやりづらいのッ。それに、あんた見てるといちいちムカつくんだよ。わたしの知ってるチビみたいで」
「チビ? ……ああ」
シエルジェの同級生──テリィのことか。確かに背格好はともかく言動や仕草は似ているかもしれない。
まさかそんな理由で対決を言い出したのかと不安になったが、こちらに目配せする彼女の横顔は至って冷静で、真剣だった。
「危なくなったら逃げるから、へいき。……お願い」
「……わかった」
アシュレーは構えを解き、ティムに準備だけはしておくよう小声で言った。そして自らも密かに銃剣に弾を込める。
いつでも助太刀できる態勢を整えてから──対峙する二人と距離を置いた。
リルカはポーチからクレストグラフを数枚まとめて取り出し、一枚ずつ詠唱して魔法を込めていく。対するカイーナも呪文を唱えて、生じた魔力の素子を胸許の飾り石に収める。
──これが、魔法使いの決闘のやり方か。
予め詠唱を済ませて手札を用意しておく。そうすればいつでも臨機応変に発動できるという訳か。相手の手札を読んで対策するような戦術も要求されそうだが──果たして彼女にそんな真似ができるかは、正直怪しい。
「先手必勝ッ」
案の定リルカは直球で勝負を仕掛けた。
手早く呪符から発動体に魔力を転移させて、思いきり振るう。放たれた魔力の玉がカイーナの頭上で弾けて幾筋もの電撃が迸った。
だが電撃はその場に佇む青年には落ちず、全て彼の持つ鍵に吸収された。
「幼稚な魔法だな」
カイーナは涼しい顔で言い放つ。
「なッ」
煽られたリルカは続けざまに魔法を繰り出した。岩石の雨が、火の玉がカイーナを襲ったが、やはり鍵に吸い込まれて跡形なく消失した。
軽々と魔法を受けきると、彼は余裕の笑みを含ませて嘆息した。
「幻滅だな。ARMSの魔法使いはこんな教科書通りの魔法しか使えないのか」
「きょ、教科書なめんなッ」
苦し紛れに残りの魔法を放つが、巻き起こる旋風も同じように巨大な鍵に遮られた。
「弾切れか? ならば──こちらの番だな」
カイーナが動いた。振り翳した鍵の先端の空間が歪み、そこから光線が放たれる。
「ひえッ」
光線はリルカの足許の床に当たると爆発した。辛うじて躱し直撃は免れたが、足がもつれて尻餅をつく。
カイーナは容赦なく同じ魔法を矢継ぎ早に繰り出した。リルカは跳び上がり、身を屈めてどうにか爆発を避けていく。
「そ、そうだ、プロテクト……!」
堪らず彼女は腰のポーチを漁り、取り出したものを掲げた。透明の容器に入った──紫色の石。仄かに輝くと同色の霧が湧いて彼女を包み込む。霧は飛んできた光線を遮断し、爆発を未然に防いだ。
ようやく攻撃の手が止み、リルカは霧の中でぜいぜい息をついている。
「クレストカプセルか。面白いものを持ってるな。──ならば」
カイーナは再び鍵を翳す。彼は既に七、八回は魔法を放っている。威力にしても手数にしても、リルカの不利は否めないか。
鍵の先端の空間に、拳大ほどの穴が穿たれた。カイーナが鍵を下ろし、リルカの方に差し向けると──その黒い穴からいきなり何かが飛び出す。
「え、わわッ」
それは紫の霧をものともせず、彼女の頭上を掠めて高々と舞い上がった。驚いたリルカは頭を抱える。
「あれは……」
アシュレーは振り仰ぐ。炎のような赤い翼の蝙蝠が、虹色の空を飛び回っている。
魔法じゃない。魔物だ。この男は異界の魔物を召喚できるのだと今更ながら思い出した。
「魔界の蝙蝠は気性が荒いぞ。もちろん血も吸う。そら、どんどん出てくる」
調子づいたカイーナが鍵を捻ると、言葉通り次々と新たな蝙蝠が穴から出現した。小さな魔物どもは上空を旋回し、隙あらば降下してリルカを襲う。彼女も傘を振り回して応戦していたが。
「いたッ!」
一匹が剥き出しの太腿に食らいついた。体勢を乱した彼女に別の蝙蝠も飛びつく。肩に、脚に、そして首筋に。
「リルカさんッ」
珍しくノエル王子が声を上げた。蝙蝠の群れは既に数十匹に膨れ上がり、赤黒い塊となって蹲るリルカに覆い被さっている。反撃の兆しは──ない。
──ここまでか。
「ティム!」
見切りをつけ、横に退いて背後の少年に叫んだ。既に杖を掲げていたティムが振り下ろして唱える。
「ソニッククロー!」
風の刃が突き抜け、少女に群がっていた蝙蝠の大半を吹き飛ばした。翼を裂かれた魔物は床を越え虹色の奈落へ落ちていく。彼女にしがみつき難を逃れた残りの蝙蝠も、アシュレーが駆け寄り銃剣で追い払う。
生き残った十匹ほどは一旦上空に避難したが、頭上で一塊になると再びこちらに降りてきた。アシュレーは銃を構え、その群れに向けて発砲する。
銃弾は赤黒い塊の中心で炸裂し、無数の小さな弾が飛散した。ボフール特製の散弾は四方に逃げた個体も残らず仕留め、魔物どもは周囲の地面に墜落していった。
全滅を確認してからアシュレーは銃を収め、カイーナを牽制した。童顔の魔法使いは顎を突き出してこちらを見下ろしている。
「物騒な武器だな」
「そんな鍵を持ってるお前に言われたくないな」
言い返してから、首を動かして横のリルカを気にする。いつの間にかノエル王子が寄り添って介抱していた。マントや服は所々破れ、出血もあったが、こちらの視線に気づいて睨み返すあたり、見た目よりは元気なようだ。
「助けるの遅い」
「悪かった。まだ頑張れるかと思って躊躇してしまった」
ホント優柔不断、と傷だらけの少女は恨みがましく悪態をつく。アシュレーは頭を掻いて繰り返し謝った。
「余興は終いだ」
カイーナが鍵の先をこちらに突きつけた。王子にリルカを頼んでから、アシュレーはその前に立ちはだかる。
「リルカに手は出させない」
「ふん。そんな半人前など今更どうでもいい」
鼻を鳴らし、鋭くアシュレーを睨めつける。目の色が先程と明らかに──違う。
「ブラッド・エヴァンスを欠き、魔法使いもこの程度。ならば敵は、もはや貴様とそちらの守護獣使いのみだ。この機にまとめて潰してやる」
「……色気を出してきたな」
ジェネレイターの防衛から、ARMS殲滅へと──切り替えたか。
ならば。
「僕らはこんなところで倒れるわけにはいかない」
「できるのか? 『英雄』もいない、満身創痍のARMSに」
「そうだッ」
銃剣を肩から外して地面に落とした。そして胸の前で拳を固める。
「僕らは仲間を喪った」
唯一無二の、大切な仲間。
それを、自分の不手際で──亡くしてしまった。
「それでも、いや、だからこそ前に進むッ」
大きな絶望を抱えたまま。
「もう二度と、大事な人たちを喪わせない」
純粋な欲望を増幅させる。
「僕はみんなを──守るッ!」
胸の裡に漲った、激情が。
「うおおおぉぉぉぉぉッ!!」
胸の裡に宿りし存在に──接触する──。
視界が明滅し、全身が何かに包まれるのを感じた。甲虫の殻に似た質感の鎧、頭を覆う仮面。そして燃え立つ焔さながらに赫くスカーフ。
──成功した。
初めて、自らの意思でナイトブレイザーに変身できた。
「……そうか、まだそれがあったな」
忘れていた、とカイーナは舌打ちする。
「まあ、これも良い機会か。噂に聞く黒騎士の力、試して……ッ!」
言い終わる前にアシュレーは駆け出した。瞬時に相手に詰め寄り、黒い手甲に覆われた拳を叩き込む。
だがその一撃は彼の顔面に届く寸前で止まった。目に見えない壁に阻まれている。
「不意を突いたつもりか。残念だったな」
物理防御の魔法、とリルカが後ろから助言する。予め魔法で防御壁を張っていたらしい。力任せに破るのは無理か。
それなら──。
アシュレーは一歩退き、固めた拳に意識を集中させた。拳の周囲に無数の光の粒子が生じる。それらは磁石に引き寄せられる砂鉄のように収斂し、形を成して──ひとふりの剣となった。
腰を落として下手に構えると、彼は光の剣を一閃した。横一文字に裂かれた防御壁が刹那の後に砕かれ、硝子のように飛散した。反動でカイーナも突き飛ばされる。
「馬鹿なッ。僕の防御魔法がこんな簡単に……!」
狼狽する魔法使いを後目に、アシュレーは頭上を浮遊する鍵に狙いを定める。しかし魔鍵は剣を振るう前にフッと消滅した。
持ち主が何かした様子はない。鍵自身の防衛機能……といったところか。
いずれにしても。
「う……」
地面に肘をついて起き上がろうとするカイーナの喉元に、アシュレーは剣を突きつける。
鍵がなければ、もう何もできない。このまま止めを刺すことも──。
──殺セ。
──邪魔スルモノハ、何モカモ。
──壊シテシマエ──。
内なる声に呼応して、剣を握る手に力を込める。刃の先で若者は悔しげに口を歪め、精一杯の虚勢を張って睨み返してくる。
無防備な……人間。対して自分は。
異形の存在。
このまま殺せば、僕は本当に。
ばけものに──。
(────ッ)
腕を、引いた。そしてカイーナに背を向ける。
この男を殺すことが目的ではない。
自分が今、すべきことは──。
剣を手にしたまま再び駆け出す。視線の先には、虹色の空に浮かぶ菱形の石。
途切れた床の縁を蹴って空中に躍り出た。ARMの射撃すら届かない距離を軽々と跳び越え、そして。
振り上げた光の剣を──繰り出した。
袈裟懸けに斬られた石の上半分が、斜めにずれて落下していく。アシュレーは残った下半分を足場にして蜻蛉返りで跳躍した地点へ戻る。
床に降り立ってから間もなく、ナイトブレイザーの変身が解けた。感情の昂ぶりが低下すると自然に解除されてしまうのは相変わらずのようだ。
肩を動かして息を吐き、それから自分が跳んできた方を振り返る。ジェネレイターの下半分も浮力を失い、徐々に高度が下がっている。機能停止も時間の問題だろう。
後は──。
「失敗……か」
背後でカイーナが呟いた。片膝をつき、忌々しそうにこちらを見ていたが。
「まあいい。これよりプランBに移行する」
すぐさま立ち上がり胸許の飾り石に手をやると、霧散するように姿を消した。
転送魔法──か。
「こんな空間からテレポートなんて、怖いことするなぁ。一歩間違えたら全身バラバラだよ」
「ば、バラバラ?」
面食らうティムに、魔法って結構危険なんだよとリルカが言う。
「ARMとかも同じだと思うけど、便利なモノってのは危ないモノの上に成り立ってるんだから。だからこそ、どうして危ないのか、どうやると危ないのかをきちんと学ぶのが大事なんだ。でも、あのキザイヤミはそのへんすっ飛ばしてる感じなんだよね」
「キザイヤミ?」
キザでイヤミだから、と彼女が答える。どうやらカイーナのことらしい。
「あんな乱暴な使い方してたら、いつかしっぺ返しが来るよ。……ま、どうでもいいけど」
言いながらリルカは立ち上がると、あちこち破れた自分の服を見回してため息をついた。
「怪我は大丈夫か?」
「回復魔法かけたからへいきだけど……ちょっとクラクラするかな」
蝙蝠に血を吸われたせいか。軽い貧血状態なのだろう。
彼女には帰りの門を作ってもらわなければならないのだが──。
「だいじょうぶ。帰りは行きより簡単だから」
心配をよそに、ARMSの魔法使いは門を作る準備を始める。その間にティムがアシュレーの所に来た。
「その……すみませんでした」
「え?」
おずおずと謝る少年に、アシュレーは目を瞬く。
「さっきは、その……出しゃばってしまって……」
「ああ」
隊を仕切ろうとしてリルカに叱られた件か。直後にカイーナが出現したおかげで有耶無耶になってしまった感はあるが。
「腑抜けてた僕の代わりに頑張ってくれてたんだろう。謝らないといけないのはむしろ僕の方だ」
「いえ、今の戦いでわかりました。やっぱりアシュレーさんは凄いです。ボクなんかじゃ……ダメでした」
すっかり元の内気な少年に戻っている。この子は勘違いしているくらいが丁度いいような気もするのだが。
──リルカに悪気はないのだろうけど。
少年の伸びかけた鼻っ柱を折った張本人は、こちらの視線にも気づかず作業に集中している。
「ティムさんは、ティムさんにできることを続けていけばいいのですよ」
どうフォローしたものか困っていると、ノエル王子が助け船を出してくれた。
「ボクに……できること」
「はい。ティムさんにしかできないこと。それがティムさんの役割です」
戸惑う少年に、王子は励ますような笑みを返す。穏やかな物腰で聡明な言葉を紡ぐ王子はアシュレーも驚くほど大人びていて、年相応の反応をするティムと並ぶと対照的だった。
「人が集まって何かを為すとき、各々には役割が振られます。ですが、その役割は本人の意思とは無関係で決まってしまうことも多いのです」
「ああ」
その通りだ。
そもそもアシュレーも、自ら進んでリーダーになったわけではない。アーヴィングに指名され、ブラッドにも後押しされて、なし崩し的に決まっただけのことだった。今となっては当然のようにその役回りを受け容れているが──もし他にもっと適した隊員がいたなら、自分には別の役が振られていたのだろう。
そう言うと、王子はゆっくりと頷いた。
「皆さんの立場は、ARMSという集団が機能するために割り振られたものです。誰かが欠けても機能しないし、誰かが役割を超えたことをしても、それは困った事態になりかねない。リルカさんはそれが気になって、ティムさんを諫めたのでしょうね」
「余計なことをするな……ってことですか」
「無理して背伸びする必要はない、ということです。貴方は今でも立派に役割を果たしているのですから」
ティムは泣きそうな顔で、ボクの役割って何なのでしょうと零した。色々な人にあれこれ言われて、自分を見失いかけているようだ。
「そんなのわかるワケないじゃない」
そこへ今回の発端がやって来た。
「誰だって役割なんてわかってないっての。自分の背中を自分で見られないのと同じ。鏡に映して見たって、そんなのは左右あべこべの嘘っぱちだよ。心配しなくても、あんたの背中はみんなが見てるから」
言いながら、怯えるティムの後ろに回り、背中を覗き込む真似をする。
「だからさ、立場だの役割だの、そんな背中に貼りついてるモノなんて気にするだけバカらしいって。できることをやる。できないことはしない。それだけだよ」
わかったか、このヘタレ少年、といきなりティムを羽交い締めにした。ティムはもはや抗う気力もないらしく、ううと呻いたきり為すがままになる。
「ていうか、もうとっくに準備できてるんだけど。早いとこ戻ろうよ」
「ああ。頼む」
リルカはティムを放してからパラソルを構える。その直後、周りの景色が光に呑まれるように白熱を始めた。
「やばッ。空間が消えかかってる」
彼女は慌ててパラソルを突き出し門を出現させる。隅から消滅していく床に急き立てられるようにして、彼らは穿たれた穴を潜って脱出した。
「殿下ッ」
『田伯光』の客車に戻ると、カルピン車掌と護衛たちが駆けつけてきた。
「ご無事でしたか。お怪我は」
「わたくしは大丈夫です。それよりリルカさんを」
王子が彼女を近くの座席へと促す。
「え、いえ、わたしもへいきですって」
リルカはエスコートを断ったが、無理はいけませんと半ば強引に席に座らせられる。見ると確かに顔色が良くない。あれだけ魔法を使い、その上魔物に血を吸われたのだから、当然と言えば当然か。
「それで……トンネルの方は」
「魔法の動力源は破壊しました。ループも解除されているはずです」
アシュレーが言うと、車掌は髭面に安堵を滲ませた。
「それでは、このまま進めば抜けられるのですな」
「はい、そのはず……」
「待った」
リルカが鋭く声を発した。席に座ったまま、前屈みでどこか一点を見つめている。
「空間が……曲がり始めてる。あのキザイヤミ、またループを作ろうとしてる」
「何だって?」
まずい。
リルカは消耗している。再びループに閉じ込められたら、今度は制御空間に入ることすら難しくなるかもしれない。
ループが繋がる前にトンネルを抜けなければ──。
「スピードを上げるんだッ」
アシュレーが叫んだ。車掌は返事すら忘れて機関車両へすっ飛んでいく。
すぐに車内が揺れて速度が上昇した。だが。
「ダメだ、間に合わないよ」
懐中時計と睨めっこしていたリルカが言う。
「もっと速くできないのッ!?」
戻ってきた車掌に訴えたが、彼はとんでもないと頭を横に振る。
「これが限度です。これ以上は爆発してしまいますッ」
「くッ……」
アシュレーは拳を固める。万事休すかと思われた、そのとき。
「貨物車両を切り離しましょう」
ノエル王子が言った。
──そうか。
牽引している貨物を切り離せば身軽になる。現在の出力でもかなりの速度上昇が見込めるだろう。
ところが、車掌はその提案にひどく狼狽えた。
「殿下ッ!? そ、そ、それはその、あの……」
言い淀む車掌に王子は怪訝な顔をしたが、すぐに取り直して続ける。
「ドラゴンの化石は貴重な資源かもしれませんが、人命には代えられません。責任はわたくしが持ちます」
お願いしますと自ら頭を下げた。それを見た車掌はあたふたと王子を押し留め、それから汗まみれの禿頭を抱えて苦悶していたが。
「しょ、承知しましたッ」
半ば自棄っぱちのように喚きながら機関車両へ走っていった。
「そんなに困ることなんでしょうか」
ティムが隣で首を傾げる。
「貨物車に載せてるのって、ドラゴンの化石ですよね。別にまた発掘すればいいようなものだと思うんですが」
「そうだな……」
アシュレーは振り返り、客車の隅に固まって深刻そうに話をしている護衛たちを見た。視線が合った何人かは気まずそうに目を背ける。
──やはり、何かある。
過剰な護衛。カイーナの目的。そして今の車掌の反応。
疑念は膨らむ一方だったが──それでも、今は。
「今はとにかく脱出することに集中しよう」
疑念に振り回されてはならない。前回の失敗を戒めとして、しっかり胸に刻む。ブラッドの死を無駄にしないためにも──。
再度車内ががくりと揺れて、それから一気に速度が上昇した。貨物車を切り離したのだろう。にわかに身体が後ろに引かれ、慌てて背凭れの肩にしがみつく。
「出口ですッ!」
機関車両から声が飛んだ。その直後、車内が眩い光で満たされる。
窓の外から射し込んだのは──陽の光。トンネルを抜けたのだ。出発したのは朝だったが、今やすっかり西日になっていた。
「助かったーーーッ」
リルカは持っていた時計を放り出して、座席に突っ伏した。
「ごめん、ちょっと……寝る」
そうして気を失うように眠りに落ちた。本当に限界寸前だったようだ。
「お疲れ様でした、リルカさん」
ノエル王子は上着を脱いでリルカの背に掛けた。十三歳の次期頭領はどこまでも紳士だ。
アシュレーもようやく人心地ついて、座席に腰を下ろした。隣ではティムが車窓に張りついて景色に目を輝かせている。
「あれがギルドグラードですか? 山にびっしりと家が」
ティムの頭越しに窓を覗くと、確かに平地に低い山らしきものがぽつんと聳えていた。山肌は箱型の家屋が隙間なく埋めつくしていたが──どこか不自然だ。
「あれって、山じゃ……」
「ええ。山ではありません」
きょとんとするティムの向かいに腰かけて、王子が言う。
「あれは一つの建物です。元々は二階建ての住居兼工場だったようですが、増改築を繰り返すうちにあのような建物になったと聞いております」
「あ……あれが」
一つの──建物?
言われてみれば巨大な城のようにも見えなくはないが、その規模はメリアブールの城を縦に積み重ねても余りある。しかも石造りの王城と違い、大部分が鉄骨と金属で構成されている。
「エルゥ族が栄えた時代には百メートルを超える建物も珍しくなかったと聞きます。それには及ばないでしょうが、それでも現在のファルガイアでは並ぶものはないと思います」
ない──だろう。他国ではこんなものは作れない。圧倒的な技術力と、それを実現できる国力。その両方を兼ね備えているからこそ成せる芸当に違いない。
工業国の威容を目の当たりにして、アシュレーは不安になる。
この大国を、果たしてこちら側に引き入れることはできるのだろうか。一筋縄では行かないことは、先のファルガイアサミットでも証明済みだ。あのときも結局部分的な協力しか取りつけることができなかった。
アーヴィングは──どうするつもりなのだろう。
彼の懸念をよそに、『田伯光』は減速し、線路脇に築かれたホームへと入る。
「到着しました。皆さん参りましょう」
停止してから王子は席を立ち、リルカの様子を見に行く。
その後ろ姿を見て、アシュレーは。
──思い至った。
今回の依頼を受けた、真の意図。それは──。
「彼……か」
いかに堅牢な城といえども、外堀を埋めてしまえば丸裸だ。頭領を城とするなら外堀は、恐らく……。
──結局今回も、あなたの図面通りというわけか。
アシュレーは立ち上がり、降車の支度をする。
脳裏では顔色の悪い指揮官が不敵にほくそ笑んでいた。
機関車を降りてもなお目を覚まさないリルカをひとまず宿に預けてから、アシュレーとティムはギルドグラードマスターの許を訪ねた。
先を行くノエル王子と護衛の後をついて例の巨大な建物へと入ったが、内部は思った以上に複雑で入り組んでおり、どこをどう進んだのか全く覚えられなかった。これは帰りも案内が必要だろう。
手狭なホールを通り、階段を上がって曲がりくねった廊下を進み、昇降機に乗り、上がった先の扉をいくつか潜ると──ようやく謁見の間らしき部屋へと辿り着いた。アシュレーの方向感覚が正しければ、恐らく建物のほぼ中央だ。
そこで待ち構えていた工業国の主は、既に顔を真っ赤にして憤慨を顕わにしていた。
「き、貴様ら、何てことをしてくれたのだッ!」
開口一番、怒鳴られた。アシュレーは身を竦める。
「父上、失礼ではありませんか」
頭領の横についたノエル王子が諫める。
「彼らはきちんと任務を果たして、わたくしを送り届けてくださったのです。何をそんなに怒っておられるのですか」
「お、お前は黙っておれ」
息子にそう言ってから、渋面のまま山高帽を取って髪を掻き回す。
「くそおッ、まさか貨物車両を切り離してしまうとは」
──貨物車両?
そのことで怒っているのか。けれど。
「その件についてはわたくしの一存で決めたことです。彼らに非はありません」
「だ、だからお前は黙って」
「いいえ、黙りません」
今度は父の言葉を遮って抗弁した。
「彼らの任務はわたくしの護衛です。それについては確実に果たしてくださいました。別件で彼らを咎め立てるのは筋違いというものです。──それとも」
ノエル王子は回り込み、真っ直ぐ頭領と向き合って続けた。
「わたくしの護衛というのは建前で、実は彼らに二両目の貨物を護らせる腹積もりだったのでは──ないですか」
「え?」
思わず声を出してしまった。頭領は動揺のあまり言葉を失っている。
「やはり……そうなのですね」
その反応で確信した王子は深々と溜息をつき、それからこちらに向けて申し訳なさそうに目を伏せた。
「すみません。わたくしがもっと早くに気づいていれば……」
「どういう……ことですか」
説明を求めると、腹でも壊したように押し黙る頭領の代わりに息子が応じた。
「『田伯光』が牽引していた貨物車は二両でした。わたくしが確認したのは前の車両のみ。そちらには確かにドラゴンの化石が積み込まれていましたが……後方車両には」
「何が──載っていたんですか」
アシュレーの問いに、ノエル王子は神妙に答える。
「貴方がたに護衛を頼むということは、即ちオデッサに狙われる可能性のあるもの。加えて、身内であるわたくしにすら秘密にしなければならないもの。その二点から推察できるのは──」
超兵器です、と工業国の王子は言い切った。
アシュレーの背筋が凍る。
──超兵器。それは。
あのスレイハイムを一瞬にして滅ぼした──。
「載っていたのは、イスカリオテ条約に抵触する可能性のある兵器──そうですね、父上?」
王子が振り返ると、頭領はいつの間にか草臥れた老人のように玉座に腰を下ろしていた。
「『核』だよ」
力なく、工業国の主は秘密を明かした。
「旧スレイハイム領で発見したのだ。超兵器でも最強の威力を持つ……『核兵器』をな。それを」
オデッサに奪われてしまった──。
その言葉で、アシュレーはようやく事態の深刻さを認識した。
無機質な壁に囲まれた空間。
天井から降り注ぐ冷たい光。
奥に鎮座する、奇妙な大樹のような装置。
そうした全てを背景にして──男は悠然と佇立していた。
「──戻ったか」
「はい」
主君の声に呼応して、控えていた一人が進み出る。光の届く範囲に踏み入ると、銀髪の前髪を垂らした生白い顔が顕わになる。
彼は抱えていたものを恭しく男に差し出す。人間の頭ほどの大きさをした、漆黒の玉。
男はそれを受け取り、高々と掲げた。そして明かりに透かすようにして中を覗く。
渦巻く闇を揺りかごにして眠るは──真紅の竜。翼を折り畳み、胎児のように躯を丸めて瞑目している。規則的に吐く寝息は黄金色で、自身も恒星のごとき輝きに包まれていた。
「素晴らしい」
その美しさにさしもの彼も高揚し、上擦った声を発した。
「これぞ正しく、神が創り賜うた至宝」
「閣下が持つに相応しき宝でございます」
若者が応じる。男は跪く彼を満足そうに見返すと、腰を曲げてその額に口づけをした。
「我は神の啓示を得た」
そうして靴音高く歩みを進め、光の中心に立つ。
「これより天に昇り、民草を導く。──支度は調ったか」
「恙なく」
若者の背後から、別の影が応えた。
「『魔界柱』のセッティングは既に完了。信号を送ればいつでも作動するはずです。それから攪乱役も」
全て、予定通りに──。
その報告に、男は口を三日月の形に歪めて。
「──よし」
竜の眠る玉を抱えたまま、すらりと腰の剣を抜き放った。
「時は満ちた。創世の宴を──始めよう」
剣を光に翳し、銀髪の威丈夫は高らかに告げた。
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序章
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第一章
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第二章
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第三章
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第四章
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第五章
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第六章
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第七章
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第八章
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終章